連載!IFRS(国際財務報告基準)基礎講座│全6回

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『IFRS 2011 原書から読み解くIFRS』研修会を2011年9月より開催することが決定しました。
詳しい研修会スケジュールにつきましては、『IFRS 2011 研修会』よりご覧ください。

IFRS概論、フレームワーク、IFRSベースの財務諸表

国際財務報告基準(IFRS)の初度適用

第6回 2011年11月3日

1.はじめに
 従来、日本基準を含む他の会計基準を適用してきた企業がIFRSの適用を開始する場合には、従前の会計基準により作成された過去の財務情報をどのように取り扱うかが問題になります。企業が他の会計基準からIFRSに移行し、IFRSに基づく財務諸表を初めて作成する場合の取扱いは、基準書ごとに定められているのではなく、IFRS第1号「IFRSの初度適用」という1つの独立した基準書の中でまとめて定められています。現在、日本基準で連結財務諸表を作成している会社が、将来IFRSを導入し、IFRSに準拠した連結財務諸表を作成する場合には、IFRS第1号を避けて通ることはできません。IFRS第1号の規定は、「使うのは一度だけ」ですが、「どの会社も必ず通らなければならない」ものです。

2.重要な語句の定義
 各論の説明に入る前に、IFRS第1号の規定を理解するために重要な用語の定義を整理しておきたいと思います。

 直近の財務諸表に「IFRSに準拠している」という明示的かつ無限定の記述が含まれており、かつ、その財務諸表を外部の利用者に公表していた企業は、初度適用企業には該当しません。それ以外のすべての企業は初度適用企業であり、IFRSベースの財務諸表の作成に際して、IFRS第1号の規定に従わなければならないことになります。

3.財務諸表の表示期間
 企業が初めて作成する財務諸表は、最低下記の期間を含む比較表示を行わなければなりません。

 他の計算書に比べて財政状態計算書が1期分多く要求されていますが、これは、IFRSに基づく財務諸表や会計処理の「出発点」ともいえる、IFRS移行日現在の財政状態計算書(開始財政状態計算書)の作成が求められているためです。

4.認識と測定の原則
 企業は、最初の報告期間の末日において有効なIFRSをあたかも従来から適用していたかのごとく遡及適用し、開始財政状態計算書以降のすべての期間にわたり、同一の会計方針を使用して財務諸表を表示しなければなりません。IFRS第1号がIFRSを原則遡及して適用するという立場を採用しているのは、開示される財務情報の信頼性や比較可能性等を確保するためです。遡及適用により表示される期間以前に生じる累積的影響は、開始財政状態計算書の留保利益、又はその他の資本項目に直接反映されます。

 初度適用にあたっては、次の点に留意が必要です。

5.遡及適用の例外
 IFRSに準拠した開始財政状態計算書の作成にあたっては、原則として過去に遡ってIFRSを適用しなければなりませんが、IFRS第1号では、遡及適用の禁止(強制)事項と任意的例外処理(免除)事項(会社が選択することによって、簡便的な処理等が認められるもの)とを設けています。禁止事項は、原則通り遡及適用を行ってしまうと不合理な結果が生じるもの、免除事項は理論上、あるいは理想的には遡及適用すべきではあるものの、遡及適用をすると実務上非常にたいへんで、コストが便益を上回る場合が多いため、IFRSを実務上円滑に適用するために企業側に配慮した規定といえます。

 IFRS第1号は、遡及適用の原則を貫くよりも、むしろ明確な例外処理を認めることによって、IFRS適用のためのコストと比較可能性の確保の合理的なバランスを図っているといえるでしょう。

●遡及適用が禁止される項目(強制的例外事項)
 まず、遡及適用が禁止される項目は、次の6項目になります。

 ここでは、見積りの適用とヘッジ会計について簡単に説明します。

◆見積りの適用
 会計上の見積りは、従前の会計基準において見積りを行った時点での情報に基づいて行わなければなりません。

◆ヘッジ会計
 移行日においてすべてのデリバティブを公正価値で測定し、従前の会計基準による繰延ヘッジ損益は、すべて消去しなければなりません。

●企業の選択により、例外的処理が認められる項目
 企業が選択することによって例外的な処理(あるいは免除)が認められる項目は、合計で18項目あります(2011年1月1日現在)。

 ここでは、初度適用企業の利用実績が多い、企業結合、みなし原価、従業員給付、累積換算差額の4項目のみ簡単に説明します。企業としてもこうした例外的な処理を活用することで、IFRS移行に伴う実務上の負担を最小限に抑えることができます。

◆企業結合
 移行日以前の企業結合については、IFRS第3号「企業結合」によらず、原則として従前の会計基準の処理(例えば、持分プーリング法による会計処理も含まれます)を継承することができます。ただし、その場合であっても従前の会計基準において認識された資産・負債の認識や測定額の見直しが求められる場合があり、また、のれんは移行日において減損テストを行う必要があります。

◆みなし原価
 原価モデルを採用する有形固定資産、無形資産及び投資不動産に関しては、IFRSの関連する各基準を遡及適用することによる測定額に代えて、移行日における公正価値をその時点の原価(みなし原価)として使用することができます。

◆従業員給付
 確定給付型制度の数理計算上の差異の処理方法として回廊方式を採用する場合には、回廊方式による遡及計算に代えて、移行日にすべての未認識数理計算上の差異を認識する方法を採用することができます。

◆累積換算差額
 在外営業活動体の財務諸表の換算に関する累積換算差額の遡及計算に代えて、移行日の累積換算差額の残高をゼロとみなす方法を採用することができます。

●遡及適用免除の例外規定がない項目
 次の項目については、これまで述べてきたような例外・免除規定が一切ないため、原則通り遡及して適用されることになります。該当項目がある企業にとっては、初度適用に先立って過去の裏づけデータを揃える等、かなりの労力をかけた対応が求められる可能性がありますので、留意が必要です。

●IFRSへの移行の影響の開示(調整表)
 IFRSの初度適用企業は、IFRSへの移行によって、企業により報告される財政状態、業績及びキャッシュ・フローがどのような影響を受けたかについて、財務諸表の利用者が理解できるように移行の影響を示した調整表を開示しなければなりません。

橋本 尚 (はしもと・たかし NPO法人国際会計教育協会会長、青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授)
金融庁企業会計審議会臨時委員、日本ディスクロージャー研究学会理事、公認会計士試験委員(財務会計論)、国際会計研究学会理事、日本会計研究学会評議員、日本監査研究学会監事、日本内部統制研究学会理事、経営関連学会協議会監事、会計大学院協会幹事、日本会計教育学会副会長、日本公認会計士協会綱紀審査会予備委員、財務省財政制度等審議会財政制度分科会法制・公会計部会臨時委員

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